栄養
2024.04.12
▶私が子供の頃、所属する少年野球のチームでの真夏の練習中は殆ど水を飲むことができませんでした。水分補給を我慢することも精神力を鍛える練習の一つとして考えられており、例え飲めたとしても「口の中が潤う程度にしろ」と言われていました。当時小学生の自分でも正直疑問に思っていました。個人的には「水をしっかり飲んだ方が体力も回復するし、今より集中して練習できるのに」と子供ながら思っていました。トレーナーとして働いている今から考えると、水を飲まずに真夏に運動を続けるのは非常に危険な行為だったと感じます。
▶人の身体は、体重の50~60%を水分が占めているので、水はとても重要な栄養素です。また、筋肉・心臓・肝臓などの臓器は、その72~75%が水分で出来ています。
水分が補給されずに脱水状態で運動を行うと、2%の水分が身体から減るだけで、運動パフォーマンスが低下致します。特に高温で湿度の高い環境にて長時間のハードなトレーニングを行った場合は脱水症状のリスクが高まります。
▶水分を補給することはとても重要です。近年では水分補給の重要性を説くテレビや本、ユーチューブが沢山出てきているので、昭和時代や平成時代の様に精神論だけで水分補給を制限するという考えは少なくなっているようにも感じます。ですが、水を飲むことがなぜ大事なのかを本当にご存じの方は少ない気がします。下記に水の役割をまとめました。
老廃物とは・・、身体が生活していく中で生じる不要な物質や代謝産物のこと。(CO2、尿、尿酸、汗などのこと)
代謝産物とは・・身体の代謝(栄養素を利用してエネルギーを生成し、組織を構築・修復するプロセス)の過程で生じる化学物質のこと。(二酸化炭素、尿素、乳酸、アンモニアなど)
▶体内の老廃物を尿として外に排出するのは非常に重要ですね。仮に腎臓を悪くして老廃物が体内に溜まった状態になってしまうと最悪の場合は人工透析になってしまう可能性だってありますから、それほど老廃物が体内に溜まってしまうことは良くないです。また尿を我慢しすぎると炎症を起こして膀胱炎にだってなってしまう可能性だってあります。適切な量の水分を摂取して、適度に老廃物を排出することが重要ですね。
1日にどのくらい水分が身体から出ていき、どのくらい身体へ取り込まれるのでしょうか?ジムに何年も勤務して、お客様一人ひとりの体組成を測り続けてきたうえで感じたのは、殆どの人が1日のうち十分な量の水分を適切なタイミングで補給できていない。ということです。
会社で仕事をすると、休憩やトイレのタイミングが仕事のシフトや休憩時間、進行具合に委ねられてしまいます。例えば、1時間の会議や接客がある場合は途中でトイレに行くことができません(できるが、場の空気的に難しい場合も多いです)ので本当は水分補給を定期的にする必要があるのに、途中でトイレに行きたくなるのを恐れて、あえて飲まないことも多いです。一回の水分補給で吸収できる量に限界があるので、後で不足分を一気に飲んだとしてもただ胃が辛いだけです。こういった、職場の環境が原因で必要な水分量を飲むことができていない方の悩みを沢山聞きます。
【1日の水分の流入量と経路】
【1日の水分の排出量と経路】
▶これに対し、体外に排出される水分は、
※不感蒸泄(ふかんじょうせつ)とは・・・発汗以外の呼気や皮膚から蒸発して出ていく水分を言います。
上記の様に、摂取量と排出量が均等に保たれています。夏場の汗をかくシーズンやジムでの運動、サウナなどが加われば、水分の排出量の方に天秤が傾いてしまい、水分量の摂取不足になってしまいます。特に運動をする前後でしっかり体重を確認して水分の排出量を計算することは非常に重要になります。
▶運動を行う前と後で体組成計で身体を計測すると、体重が減っていることがありますね。これは体脂肪が減少したのではなく、身体の水分が失われたことによるものです。その場合は運動中の水分補給が不足している可能性がありますので、直ちに水分を補給する必要があります。
※脱水によって、体重が2%減少するだけでも運動パフォーマンスの発揮は減少してしまいます。
逆に言えば、運動後に体重が増加した場合は、水分を摂りすぎたということになりますので、その時は次回の水分の補給量を少なめにすれば良いのです。
運動の前後の体重を毎回測ることは、運動中の水分補給の量が適切であったかどうかを測るための大切な指標になります。
➀トレーニングの前に体重を測ります。
▶仮に62kgとします。
②トレーニング後に体重を測ります。
▶2kg体重が減って、60kgになっていました。この-2kgが水分が失われた量です。
③失った分の体重1kgにつき、1300~1600mlの水分を補給する必要があります。
▶2kg×1300~1600ml=2600ml~3200mlになります。
④2.6L~3.2L分、トレーニングで失ったことになります。つまりこの量を補給する必要があります。
運動後にこの量を飲むのはきついと思いますので、やはり運動中にこまめに水分補給することをお勧めいたします。ジムで2Lペットボトルを持参して水分補給をする方がいます。これは、今自分が飲んでいる水分の量を目で確認する為に非常にい有用なやり方だと思います。
【体重 ✖ 30~40ml/kg = 1日の必要な水分量(ml)】 になります。
例えば、体重が60kgの場合、60×30~40=1800ml~2400mlになりますので、最低1.8L~最高2.4Lの範囲と考えられます。
飲む際の注意として、1日に必要な量を一気に飲むのではなく、コマめに少しづつ飲むように心がけましょう。やり方として、1Lのペットボトル2つ分、または2Lのペットボトル1つ分を毎朝用意し、これを1日に飲むためのノルマとして持参すれば、必要な量をほぼ正確に飲むことができますね。
▶のどの渇きは、水分補給のタイミングの目安となるわけではありません。喉の渇きを感じる時にはすでに脱水の状態です。(但し、脱水状態を判断する一つの手がかりとして、喉の渇きを基準にするのは一つの指標になりえます) 喉が渇いている時は必ず水分補給するべきです。特に運動中は、喉の渇きを感じる前に、10~15分に一回はウォータークーラーなどで水分補給をするべきです。
1日における必要な水分量と補給タイミングを理解したところで、毎日今自分が飲んでいる水分量が合っているのかをいちいち計算するのは面倒と感じる方も多いでしょう。喉の渇き以外に脱水状態を評価するもう一つの指標として尿の色と量を観察するというやり方があります。下記にそのやり方を示しました。
【尿がレモネードのように薄い色で、量が多い場合】
▶水分補給が十分に出来ている状態です。
【尿がリンゴジュースのように濃い色で、量が少ない場合】
▶水分が不足しています。補給をしましょう
※マルチビタミンなどのサプリメントを摂取している場合、水分を多く摂っていても尿が濃い色になっている場合があります。これは、マルチビタミンに含まれているリボフラビンが尿を濃くしているからです。
▶話がすこしずれますが、リボフラビンは重要な栄養素で、マルチビタミンのサプリメントを飲む際に一緒についてくるものなので、リボフラビンの効果を知っておく必要があると思い、下記にまとめました。リボフラビンは、ビタミンB2としても知られる水溶性ビタミンの一種です。体内では、エネルギー代謝に不可欠な役割を果たします。
食品からのリボフラビン摂取源には、レバーや肉類、乳製品、卵、緑黄色野菜などがあります。リボフラビンは水溶性であるため、体内で余分な分泌物として排出されるため、定期的な補給が必要です。
吸収されずに余ったリボフラビンが尿として排出されるということは、逆に言えば体内で十分にリボフラビンが摂取できているというサインでもあります。
▶どうせ水分を補給するなら、より効果的に補給したいものです。何をするにしても効率を求めるのが人間の性ですね。水分補給する際は、下記の事に着目するとよいでしょう。
少年野球をやっていた夏の暑い頃、中々水分補給が出来なかったので、数時間ぶりにある休憩中に「飲み溜め」をしようと思い、僅かな休憩の際に水分を1L位の量を一気飲みしていました。飲みすぎてお腹がタポタポになるので動きづらくなるので当然運動パフォーマンスは下がりました。
あれだけ水分を一気に飲んでも尿が全く出ずに尿意すらも感じなかったのは、やはり汗による水分の排出量が尋常ではなかったのでしょう。
必要以上の水分の摂りすぎは稀に低ナトリウム症を引き起こす可能性もありますので、簡単に説明いたします。
▶低ナトリウム症(水中毒)は、水分補給を過剰にしすぎた時に稀に起こる症状で、体液が希釈化されて、血液中のナトリウム濃度が異常に低下した状態です。
【原因】
【症状】
低ナトリウム症の症状には、頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、筋肉のけいれん、意識障害などがあります。重度の場合、脳の浮腫や水中毒が発生し、命に関わる危険があります。
【なり易い人】
マラソンランナーやトライアスロンの選手などの長距離選手や発汗率が激しい人に見られます。
▶高強度の持久力運動をすると、体は汗をかいて水分を失います。この水分の損失はかなり大きく、1時間あたりで1.9から3.8Lにもなります。一方、体内に水分を補給するために飲んだ水は、消化器官を通して吸収されます。しかし、消化器官は一度に吸収できる水分量に限りがあり、1時間あたり約0.95リットルまでしか吸収できません。
そのため、高強度の持久的な運動をする場合、体内の水分を適切に補給するためには、消化器官が吸収できる量を超えないように水分補給を調整する必要があります。過剰な水分摂取は、胃腸の負担を増やし、消化器官の機能を妨げる可能性があるため、適切なバランスを保つことが重要です。
水分補給の重要性や、必要な量、タイミングなどを上記の文章で述べましたが、それでも水分量を補うことができなかった場合、次のような症状がでる場合があります。
繰り返し述べますが、スポーツ現場では、脱水によって体重が2%減少するだけでもパフォーマンスは低下します。 体重が60kgの選手の場合、1.2kgの喪失でパフォーマンスが低下することになります。
※通常時の深部体温は通常37℃程度ですが、運動をするにつれて徐々に体温は上がり、40度を来れることもあり、その際に神経系が影響を受け、体温の調整メカニズムが乱れます。この場合、パフォーマンスが低下するのは勿論ですが、熱中症をも引き起こす可能性があります。
その場合、アイススラリー(水と小さな氷がシャーベット状に混ざった飲料)などで体内から冷却することや全身を冷却するアイスバス(冷水浴)を用いて、体外から冷却する必要があります。
水を飲むことだけが水分補給ではありません。アルコールを含まない飲料や食べ物からも補給できるのです。特に水分を多く含む食べ物は満腹感を感じやすいので、食べ過ぎを防ぐ効果もあります。
※食品に含まれる水分は1日の総水分量の約30%を占めています。
※ナス、キュウリ、レタス、スイカは水分補給に最適な食材。
※夏の旬な野菜は水分を多く含んでいます。
ナスやキュウリは水分補給に最適な食品の一部です。これらの野菜は、水分を豊富に含んでおり、さわやかな味わいや食感があります。特に夏場や運動後など、水分補給が必要なときには、これらの野菜を摂取することで水分補給ができます。
したがって、ナスやキュウリは水分補給に最適な食品と言えます。水分補給だけでなく、栄養素も豊富に含まれているため、健康的な食事の一部として積極的に摂取することをお勧めします。
両方の食品は、水分補給に加えて、さまざまな栄養素も提供してくれます。特に、暑い季節や運動後には、これらの食品を積極的に摂取することで水分補給と栄養補給を同時に行うことができます。
▶1回60分のセッション(トレーニング)では、約500mlの水分補給を目指しましょう。(体重や、その人の発汗量によって違います。)
トレーニングの時だけでなく、1日を通して定期的に水分補給を行うように心がけましょう。ここで注意しておきたいのは、甘い糖質を含むスポーツドリンクは60分未満の運動には不要です。
▶スポーツドリンクが必要なのは、以下のような状況です:
しかし、短時間の軽い運動やウォーキングなどでは、水を飲むだけで十分な場合がほとんどです。基本的には、個々の運動量や環境、個人の身体的状態に応じて水分補給の必要性を判断することが重要です。
※基本的には、何も加えていないただの水を飲むことが体に効果的に水分を補給する方法となります。アルコールには利尿作用があるので、お勧めではありません。
【冷たい水】
【温かい水】
▶冷たい水の方が、温かい水よりも身体に効率よく吸収されるそうです。また、冬など寒い時期に冷たい水をあえて身体に入れることで、体内が「冷たい」と感じ、反射的に身体を温めようとする作用が出るようです。それにより代謝が上がり、痩せやすくなるとも言われています。
この記事では、水分の必要性や役割、補給するタイミングなどを書いています。私は水の事を勉強する前と後では水の見方が大きく変わりました。毎日のなんとなくの水分補給に意識や意義も加えるとプラシーボ効果もあってか体調が良くなった気がします。幸い日本は水資源に恵まれており、水道水からは厳しいあらゆる基準をクリアした良質な水を手軽に補給することができます。今迄あまり好きではなかった雨季のシーズンも、恵みの雨と考えるようになりました(本当です)。
参考文献:
全米エクササイズ&スポーツトレーナー協会認定、NESTAテキストP183~186
日本トレーニング指導者協会 テキスト 実践編p231,p131
日本トレーニング指導者協会 テキスト 理論編p112